中国の囚人は二つに区分できます。一つ目は罪を犯し、法的手続きを踏んで犯罪者として投獄されている囚人。二つ目は中共政権が「国家の敵」と定めたグループに属する人々で、法的手続きなく警察により任意に拘束されている人々です。(参照:国家の敵)
2018年から2019年にかけてロンドンを拠点に開廷された「中国での良心の囚人からの臓器収奪を調査する民衆法廷」(中国・民衆法廷)では、後者を「良心の囚人」と位置付けています。中華人民共和国は、この「良心の囚人」の存在を認めていません。
このセクションでは、拘束されている「良心の囚人」、それらの人々を対象に行われた身体検査、この二つの要因が可能とする極めて短い待機時間について解説します。
任意に拘束される人々
衛星写真が示す新疆ウイグル自治区のアクスの収容所にある三つの施設
(ガットマン氏のセミナー映像からスクリーンショット)
冒頭で挙げた国連の特別人権報告者から中華人民共和国に宛てた書簡は、「中国における強制臓器摘出は、特定の民族や言語、宗教上の少数派を対象とし、逮捕の理由も告げられず逮捕状もなく拘束されている」と指摘し、具体的に「法輪功学習者・ウイグル人・チベット人・イスラム教徒・キリスト教徒」を挙げています。
新疆ウイグル自治区で理由もなく拘束された人々、法輪功学習者の収容所に関する証言が存在します。
カザフスタンに住むウイグル人のオムル・ベカリさんは、2017年3月にウイグルでの会議に参加したあと、ピチャン県の家族を訪問し、翌日に何の理由もなく逮捕されました。会議は、カザフスタンの首都アスタナ(訳注:2019年にヌルスルタンと改称)で2017年6月から9月にかけて予定されていた産業見本市を促進するためのものでした。(参照:「中国・民衆法廷」に提出した陳述書の邦訳)。
カザフ人のグルバハール・ジェリロヴァさんは、取引先の娘から物品の配送手続きをするためにすぐにカザフスタンからウルムチに来るように言われ、ホテルに一泊した翌朝、3人の警官に逮捕されました。(参照:「中国・民衆法廷」に提出した陳述書の邦訳)ジェリロヴァさんは「中国・民衆法廷」の公聴会で次のようにも証言しています。
そこにいた人は皆、無実です。ウイグル人もしくはイスラム教徒だから拘束されたのです。例えば、47歳のウイグル人の女医は、電話にウイグルの歌が入っていることが見つかり、拘束されました。その曲は禁止されていると言われました。 ウイグル人の51歳の女性は、息子に小麦粉が切れたとメッセージを送りました。秘密のメッセージを送ったと責められ、これが拘束の理由でした。 (参照:「中国・民衆法廷」口頭供述のまとめの邦訳)
中国北西部の新疆ウイグル自治区では、特に2017年から理不尽に大量の人々が再教育制度の名の下で拘束されるようになりました。収容所が数多く建設されており、新疆アクスでは1キロ平方の土地に病院、収容所、火葬場が集約していることが指摘されています。(参照:ウイグル人)
2006年には、法輪功学習者の収容所に関する告発がありました。臓器収奪問題を初めて世界に告発したアニー(仮名)は、次のように語っています。
蘇家屯病院の統計ロジスティクスで仕事をしていた2001年、食糧の購買量が急激に増えた。5000〜6000人の法輪功学習者が病院の裏庭に建てられた1階建ての建物に収容されていて、その後、地下の設備や他の病院に移送された。
また、元欧州議会議長代理のエドワード・マクミラン=スコット氏は、2006年に中国で下記の証言を聴取しました。
私は曹東氏に中国で臓器狩りの強制収容所の存在に気付いているかと聞いた。曹東氏はこのような強制収容所は確かに存在し、しかもそこへ送られた人の中には私の知人もいると述べた。彼は、法輪功学習者だった友人の遺体に、臓器摘出後に残された穴があるのを見たと証言した。
臓器収奪問題を調査した最初の報告書『戦慄の臓器狩り』によると、曹東氏はエドワード・マクミラン=スコット氏と面会した後、直ちに拘束され、中共当局は9月に彼を甘粛省に移し、12月に四つの罪名で彼を起訴しました。
しかし、裁判官は曹東氏の訴訟について、 当裁判所には裁く権利がないと明言しました。なぜなら曹東氏の訴訟は北京にある法輪功取締本部 (610オフィス)に管轄されているからでした。「国家の敵」として選定された法輪功学習者には、法的保護が一切ないことを示しています。(参照:法輪功学習者)
身体検査とDNAデータの採取
身体検査
臓器移植では、レシピエント(臓器を受け取る患者)の身体が臓器を拒絶しないように、ドナー(臓器提供者)の血液型・組織型との適合性を事前に検査する必要があります。このため、拘束者が身体検査を受けたという数多くの証言は、拘束者からドナー候補が選定されていることを裏付けます。
拘束経験者の証言によると、身体検査の理由も結果も知らされません。血液検査だけでなく、臓器検診も明らかに行われています。
2021年にロンドンを拠点に開かれた「ウイグル法廷」の第1回公聴会(2021年6月4日)では、「すべてのウイグル人の拘束者に対して血液型と肝臓検査の結果などを記載した医療ファイルがありました」とサイラグル・サウイトバイさんが証言しています。
DNAデータの採取
新疆ウイグル自治区では、2017年に新疆全体の「年度体検」(健康診断)を通してDNAを含む1880万人のバイオデータが構築されました。収集されたDNAから臓器の長期的な適合性が予見できると指摘されています。
ロンドン・ユニバーシティー・カレッジ遺伝子研究所のデービッド・カーティス教授は、囚人ではなく日常生活を送っている者がDNA情報を基盤にドナーとして捕えられる可能性は否定できないと警告しています。
極めて短い待機時間
中国での臓器移植の特徴として、極めて短い待機期間が挙げられます。
上のグラフは、中国とその他3カ国の腎臓移植待ちの日数を比較したものです。
中国は移植手術の待ち時間は公表していません。2019年に患者のふりをして中国の病院に腎臓移植の問い合わせをした電話のおとり調査では、「検査後4〜5日」(海南学院第二附属医院)、「3ヶ月以内には必ずできる」(遵義医科大学附属医院)という医師の回答が録音されています。このグラフでは、多めに見積もって3ヶ月、つまり90日を用いました。
さらに、2020年には、コロナウイルスの蔓延にもかかわらず、異例の早さの臓器提供の事例が報道されています。下記に2つの事例をご紹介します。
◎2020年2月29日、江蘇省無錫市で、中日友好医院肺移植科部長の陳静瑜教授のチームが、世界初の新型コロナウイルス感染による肺炎患者の両肺移植手術に成功。健康な両肺を持つ人間がタイミングよく脳死し、血液型とHLA(ヒト白血球抗原)が適合する肺が5日間で提供されている。
◎2020年6月25日、武漢の共和医院心臓血管外科部長の董念国教授と夏家紅教授を筆頭に、日本で人工心臓を10ヶ月装着していた患者への心臓移植に成功。16日に1つ、19日に1つ、手術当日の25日に2つの心臓の提供があり、この移植手術のために10日間で合計4個の心臓が提供されたことになる。
血液型、組織型が完全に把握された「臓器バンク」の存在なしでは、これほどの短期間で人命に不可欠な臓器を入手することは不可能です。
日本や欧米では臓器提供を希望する人が死亡した場合、死亡者と組織適合する移植を待つ患者に臓器を移植されます。このためには何年も待つことになります。
しかし、中国では逆適合が行われており、移植を望む患者の注文に応じて、その患者の組織型に適合する人がデータベースから選別され、臓器が収奪されています。