正論7月号に、ヤン・エキレック氏による”中国共産主義の臓器収奪システム”が掲載されました。
米国で2026年3月に発売され、米紙ニューヨーク・タイムズのハードカバー・ノンフィクション部門ベストセラーにランクインした『受注殺人(仮題):中国の臓器収奪産業と米国最大の敵の実像』(Killed to Order)の著者であるヤン・エキレック氏の記事です。
ヤン・エキレック
一九七三年カナダ・トロント生まれのポーランド系カナダ人。
カナダのアルバータ大学で進化生物学を専攻。
『エポックタイムズ(The EpochTimes)』シニアエディター、
米国の人気インタビュー番組
「『American Thought Leaders』のホスト。
ホロコーストをテーマにしたドキュメンタリー映画
『Finding Manny』の制作も手掛けたジャーナリスト。
私が米国で三月に出版した著書『受注殺人(Killed to Order)』は、ありがたいことに予約段階から大きな反響を呼び、米アマゾンの共産主義、社会主義、アジア政治のカテゴリーにおいて上位にランクインしました。ニューヨーク・タイムズ紙の書籍売り上げでもベストセラーになりました。
「今、世界が読むべき重要な告発書」として、政治家、人権活動家、真実を追うジャーナリストたち、そして一般の人々の間で広範な議論を巻き起こしています。
臓器収奪という問題を通して中国共産党の本質を提示したこの本が、広く読まれていることは、長年この問題に従事してきた者として大きな励みとなっています。
邦訳版はまだ世に出ていませんが、日本の産経新聞社が発行する月刊『正論』編集部から、本書のエッセンスを紹介するインタビューの機会をいただいたことも、非常に意義深いことだと感じています。
日本は地理的にも文化的にも中国と密接な関係にあり、同時にアジアにおける民主主義の砦でもあります。一人でも多くの日本の方々に、隣国で進行している「人類史上類を見ない犯罪」の本質を理解していただきたい。その一心で、私がこれまで検証してきた事実と、その根底にある中国共産党の統治論理をここに詳述します。

国連への報告と「拷問」現場から
私の活動の原点は、二〇〇〇年代半ばに遡ります。
中国からの逃亡ルートにも使われるラオス・タイ・ミャンマーの国境地帯、ゴールデントライアングルを通って、中国国内の過酷な弾圧・迫害から逃れるためにタイに辿り着いた法輪功学習者の亡命手続きをカナダ人として支援していました。この無名な英雄たちの話を世の中に伝えたいという願いが、私がジャーナリストになろうと考えた動機でした。
これ以前の二〇〇四年には、国連で認定されたNGOと連携し、国連人権委員会において人権侵害の是正を働きかけることを目的とするワーキンググループで活動していました。法輪功学習者に対する迫害の詳細が掲載されているウェブサイト「明慧ネット」から個別事例を収集し、いわゆる「国連用語」に書き直し、特別報告者のチームが内容の真偽を検証しました。
当時の国連の「拷問に関する特別報告者」はオーストリア出身の人権弁護士、マンフレッド・ノワク氏でした。
信頼できると判断された事例を特別報告者は、中国代表部に送付し、二十四時間以内に回答するよう求めました。中国側の回答は、常に一様でした。 「そんな事実は存在しない」
「あり得ない捏造だ」
彼らはまず、すべてを否定することから始めます。
しかし、このプロセスには極めて重要な意味があります。たとえ彼らが公式に否定したとしても、「自分たちの悪行が国際的な監視の目に完全に晒されており、具体的な個人名や場所まで特定されている」という事実は、現場の役人や中央政府にとって無視できない牽制となります。
すると特定の人物に対する迫害の手が緩むのです。最終的に何名かの命を救うことができたのではと思います。
確信に至った二人の内部告発者
当時、中国で臓器収奪が行われているという噂は、私の耳にも届いていました。米議会などで証言が行われたことも知っていましたが、当初の私は、それらはあくまで小規模で単発的な、一部の腐敗した役人や軍医による逸脱行為なのだろうと捉えていた部分がありました。
「国家規模で、産業として組織的な殺人が行われている」という主張は、あまりにも常軌を逸しており、当時、私自身が納得するための裏付けとなる決定的な証拠が不足していたのです。
実は私は、何ごとにおいても確固たるエビデンスがなければ動かない、非常に疑い深い性格なのです。
しかし、二〇〇六年に相次いだ二つの内部告発に、動かぬ事実であることをつきつけられました。私の認識を根底から、そして完全に覆したのです。それは、冷酷な事実の塊によって頭を叩きつけられたような衝撃でした。
一人目の告発者は、イスラエル移植学会の元会長であり、著名な移植外科医であるジェイコブ・ラヴィ氏でした。
彼が語ったエピソードは、移植医療倫理を根底から破壊する衝撃的なものでした。ラヴィ氏はある日、自身の患者から「もうこれ以上は待てません。中国へ行って、二週間後に必要な心臓を手に入れます。すでに手術の日程も決まっています」と告げられます。
信じがたい話でした。当初、ラヴィ氏は「そんな馬鹿なことがあるはずがない」と一蹴したそうです。しかし、その患者は予告通り中国へ渡り、二週間後には新しい心臓を移植されてイスラエルに戻ってきました。
通常の倫理的な医療規範に照らせば、生命維持に不可欠な臓器である心臓の移植手術が特定の日に「予約」される事実は、医学的な論理破綻を意味します。心臓移植を成功させるには、ドナーとレシピエントの間で血液型、組織型(組織適合性)、および臓器のサイズが厳密に一致しなければなりません。これら全ての条件を満たすドナーが見つかる確率は統計的に極めて稀です。
アメリカや欧州、日本といった倫理的な移植制度がある国では、適合者が見つかるまで患者は何カ月、あるいは何年も、いつ来るかわからない「死」の知らせを待機し続けるのが常識です。特にイスラエルは人口が少なく、移植医療はドナー不足の課題を抱えていました。
心臓移植は、適合ドナーが不慮の事故などで脳死状態に陥るという、予測不可能な「死」の瞬間に合わせて直ちに実施されなければなりません。
誰がいつ亡くなるかをあらかじめ予見し、二週間後のカレンダーに手術予定を書き込むことは、医療のセオリーとして絶対にあり得ないのです。
ところが、中国ではそれが日常的に行われているというのです。「予約」が成立するためには、ちょうど二週間後に、特定の適合ドナーが「確実に亡くなる」ことを病院側が事前に把握していなければなりません。言い換えれば、病院側がドナーの「死のタイミング」を完全にコントロールしていなければならないのです。
「そんなことがありうるのか」。ラヴィ氏はこの論理的矛盾から様々な検索調査をし、突き詰めた結果、「中国は移植注文が入った瞬間に、データベースから適合する人物を選び出し、手術日に合わせて殺害している」という結論に達しました。
あらかじめドナーの死が確定していない限り「予約」は不可能であり、移植のために誰かを計画的に殺害するシステムが存在するとラヴィ氏は告発したのです。
これを契機にラヴィ氏はイスラエルの移植法の改革にも身を捧げました。彼が主導した立法では、イスラエルが公的資金で中国の移植手術に援助することができないようにしたもので、改革を通じてイスラエル国内の臓器供給を増やし、移植制度を強化することにも力を尽くしました。
二人目の告発者は、中国の病院に勤務していた移植外科医の元妻、アニー(仮名)という女性でした。彼女の証言はより具体的で、現場の生々しさを伴う凄惨なものでした。
彼女の夫は、中国国内の施設で、意識がある、あるいは生存している人々から、二千個にも及ぶ角膜を摘出していたというのです。さらに彼女は、法輪功学習者が「臓器ドナー」として生きたまま病院の地下に収容されていたことを明らかにしました。
一方は医療セオリーの矛盾を突く「レッドフラグ(警鐘)」としての論理的証言、もう一方はその内部で行われている凄惨な「メカニズム」の実証的証言です。
この二つが、全く異なる立場から、同時期に、かつ完璧に符合して提供されたこと。これこそが、私にとっての「エビデンスという名の衝撃」となりました。
その直後、私は縁あってポーランド南部のアウシュビッツで、中国での臓器収奪を暴露する1万筆の請願を発表するための、「アウシュビッツ・センターでの対話と祈り」というフォーラムでの記者会見を準備することになりました。
ポーランド系カナダ人であり、共産主義から逃れた両親を持つ私にとって、ナチスの虐殺の現場で現代の虐殺を告発するこの活動に携わったことは、単なる偶然とは思えない運命的な転換点となりました。
巨大な国家権力と産業化
では、なぜ中国という国家において、これほど大規模な人権侵害が組織的な「産業」として成立し、維持され得たのでしょうか。
強力な国家権力が持つ二つの特異な機能が不可欠な要素です。これらはいずれも、独裁体制でなければ成し得ない「悪魔の機能」です。
第一の機能は、「情報の独占とプロパガンダによる精神的統制」です。
中国共産党は、情報システムを通じて国民の思考に強大な強制力を行使します。彼らはプロパガンダを駆使し、特定の集団を「人間以下の存在」、あるいは「国家の敵」として定義し直すことに長けています。これは、共産主義の歴史において常に繰り返されてきた手法で、標的、スケープゴートが日本、日本人になることもあります。
文化大革命の最初期、毛沢東時代に彼らが最初に標的としたのは地主でした。彼らの土地を奪うためには、国民に対して「地主は搾取者であり、彼らを傷つけ、物を盗み、抵抗すれば殺してもかまわない」と納得させたのです。
地主は「労働者階級の敵」とされた五種類の社会階層(黒五類)の一つで、彼らは「あなた達とは違う劣った存在」だと中国共産党は徹底的に刷り込んだのです。
この「非人間化」のプロセスこそが、医療従事者が生きた人間から臓器を摘出するという、本来ならば耐え難い行為に手を染める際の心理的障壁を取り除く役割を果たしました。
第二の機能は、「法の手続きを完全に無視して巨大な集団を収容する実力的権力」です。
一九九九年、当時の独裁者・江沢民は法輪功の迫害を決定しました。一九九◯年代、気功ブームの中で、伝統的な修煉法として法輪功が初めて導入されました。当時は中国共産党も法輪功を容認し、推奨さえしていました。それがなぜ一転して、あれほどまでの執拗な迫害となってしまったのでしょうか。
法輪功が中国政府の推定で七千万人から一億人に達するほど中国社会に浸透していたことへの恐怖、そして何百万人もの人々に慕われる創始者、李洪志氏への個人的な嫉妬がその引き金であったことは間違いありません。
大国の指導者が「嫉妬」で動くなど、最初は馬鹿げた話だと思っていましたが、ワシントンDCで活動するようになり、政治のメカニズムを目の当たりにし、嫉妬、欲望といった感情が、政治の意思決定に非常に大きな影響を与えることを理解しました。
しかし、党が法輪功を最も恐れた本質的な理由―それは、法輪功が「真・善・忍」という独自の原則を持ち、共産党の厳格な階層制(ヒエラルキー)の外側で自律的に動く「自由な思考」を持っていたことです。
共産党は、自分たちのコントロール下にない「自発的な組織」を極端に嫌います。党の命令なしに動き、金銭も名簿も持たず、ただ良心に従って行動する人々。このエージェンシー(主体的意志)は、全体主義体制にとって最大の脅威だったのです。
結果として、数百万人の学習者たちが、まともな裁判もなく、巨大な刑務所や労働収容所へと送られました。
国連の拷問に関する特別報告官マンフレッド・ノワク氏は、二〇〇五年の報告書で「拷問者の六六%が法輪功学習者である」と指摘しました。
この膨大な収容集団こそが、移植医療における「生きた臓器在庫(ドナー・バンク)」の基盤となったのです。収監された人々の血液型や組織型は即座にデータベース化され、注文(支払い)が入った瞬間に、適合する人物を刑務所から手術台へと送り出す。
これこそが、世界中の富豪が求める臓器を「二週間」という短期間で提供できる、恐るべき「受注生産モデル」の正体です。
道具化という統治哲学
このシステムを支えている根底には、中国共産党特有の「道具化」という概念があります。これこそが、彼らの思考回路を理解する最大の鍵です。
彼らにとって、この世のあらゆる存在――それはパンダであれ、卓球であれ、歴史認識であれ、あるいは自国民の肉体であれ―は、党の目的を達成するための「便利な道具」や「使い捨ての素材」に過ぎません。
彼らの冷徹な計算は、人間の肉体に対しても同様に適用されます。法輪功学習者やウイグル人の身体は、尊厳ある生命としてではなく、外貨を獲得し、軍事技術や医療技術を発展させるための「生物学的資源」として道具化されました。
彼らにとっての人体は、尊厳を持った一個の人間ではなく、高値で売買されるパーツ(部品)の集積体として管理されているのです。
さらに狡猾なのは、彼らが私たちの「善意」や「信頼」さえも道具として利用する点です。
彼らは国際社会に対し、常に二つの顔を使い分けます。あるときは「私は中国を民主化したい改革派だ。だが、党内の強硬派を刺激したくないので、今は静かに見守り、資金や技術を援助してほしい」と語りかけます。
この「改革派」という仮面もまた、国際的な批判をかわし、西側から富や技術を吸い上げるための巧妙なツールでした。
かつてWTO(世界貿易機関)への中国の加盟を認めることで中国が民主化するという期待が広がったことがありました。ですが、彼らはその期待そのものさえも、自らの体制を強化するための道具として手玉に取ったのです。
実際に、日本や米国を含む先進国の移植医療者たちは、自らの技術が「受注殺人」の効率化に転用されているとは露知らず、研究開発やトレーニングの面で多大な協力を提供してきました。
日米欧の医師たちが教えた洗練された手術手技や、製薬会社が開発した免疫抑制剤が、皮肉にも国家による組織的殺人をより確実に、より効率的に遂行するためのツールとして組み込まれてしまった。
私たちの善意による協力が、この巨大で非倫理的な臓器収奪の歯車を円滑にさせるべく利用されてしまった。そのことは、私たちが決して見逃してはならない、痛切な悲劇です。
真実という名の防波堤
中国が構築した臓器収奪産業は、単なる一過性の腐敗や個人の犯罪ではありません。
二〇二五年九月三日のことです。北京で行われた軍事パレードに臨んだ習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領との両首脳が北朝鮮の金正恩総書記と共に天安門広場を歩いていた際に交わした会話が、通訳がマイクを切り忘れたためにメディアに流れるという出来事がありました。
習近平氏がこういいました。
「かつて人々は七十歳まで生きることは稀だったが、今では七十歳でもまだ子どもだ」
これに対し、習氏と同じ七十二歳のプーチン氏は「バイオテクノロジーの発展により、人間の臓器は継続的に移植できるようになり、人はどんどん若返り、ついには不死さえも実現できる」。
こう言及すると習氏は「予測では、今世紀には寿命が百五十歳に達する可能性がある」と述べました。
この言葉のすぐ後に音声は途切れたのですが、この会話は習氏が
中国を支える巨大産業と化した臓器医療への自信を表すものとして注目され、BBCもニュースにして世界中を駆け巡りました。
中国の臓器収奪が巨大産業となったことは共産主義体制の統治原則そのものが生み出した「必然の産物」であり、人間を主体的な意志を持つ存在としてではなく、国家のために消費されるべき「道具」と見なす思想の究極の到達点です。
彼らが掲げる「人命を救う崇高な事業」という言葉は、その内側にあるおぞましい「道具化」の論理を隠し、国際社会を欺くためのプロパガンダに過ぎません。
私たちがこの冷徹な真実から目を逸らしている間にも、誰かの臓器が「注文」され、そのために一人の命が奪われています。
私が『受注殺人』を執筆し、こうしてインタビューに応じるのは、彼らが「道具」として利用する私たちの無知を、真実という名の光によって打ち破るためです。一国家が自国民を「在庫」として管理し、利益のために殺害するという悪夢を終わらせるためには、私たち国際社会が「道具」として利用されることを断固として拒否しなければなりません。
一人でも多くの日本人が、自らの国の移植医療の在り方や、対中政策の背後に潜む「道具化」の影について、深く思いを馳せてくださることを願ってやみません。真実を知ることは、私たちがこの巨大な悪に対する防波堤となるための、最初にして最大のステップなのです。
関連サイト:
【Fujisan】正論の最新号【2026年7月号 (発売日2026年06月01日)】
【ETAC】中国の臓器収奪の実態を描写した新刊(Killed to Order:受注に応じた殺人)がベストセラーに
【大紀元】中国の臓器収奪の実態を描写した新刊(Killed to Order:受注に応じた殺人)がベストセラーに – 中国での臓器移植濫用停止 ETAC国際ネットワーク








