日本のためのアクション・プラン
デービッド・マタス
(2019年3月23日 東京での勉強会で発表した内容を拡張)
国境を超えた移植濫用を撲滅するため、日本にはアクション・プランが必要である。下記の12点を含む基本方針を提案したい。
1) 域外立法
1997年に施行され、2009年に改訂された日本の臓器移植法は、臓器売買および臓器売買の斡旋や仲介を罰するものだが、同法の及ぶ範囲には限界がある。
日本は刑法の属地主義(国家の立法は領土内のみで効力を有する)を基本的に適用している。日本国内で禁ずる行為を犯す者は、国民、永住者、一時的な訪問者に係わらず、日本の法律により罰せられる。しかし、日本国外で犯した行為は、法規が罰を明示しない限り、罰せられることはない。
日本の臓器移植法は臓器売買に関しては治外法権の効力を明示しているが、斡旋・仲介は明示していない。この治外法権法は、日本国民のみに適用し、永住者や訪問者には適用しない。
訪問者もしくは永住者が、日本の臓器移植法で禁じられている行為を日本の国外で犯した場合、その行為のために日本国内で罰せられることはない。国外での移植を促進する斡旋業者は、事実上、日本国内では免責となる。
この状況を変える必要がある。日本国民、永住者、日本に来ることになった訪問者に係わらず、日本国外で日本の法的基準に違反する者に適用するよう、現行法を修正する必要がある。また国境間の斡旋もしくは仲介にも適用するような修正が必要である。
2) 報告義務
日本には医療専門家による移植ツーリズム管理者への報告義務制度が必要である。現状では、移植ツーリズムに関して自主的報告さえも存在しない。
滞日中、日本や他国から中国への移植ツーリズムに関してよく尋ねられた。ある程度の情報はあるがほとんどは個人的なものである。私の知る限り、日本に限らずどこの国でも、この(移植ツーリズムの)現象に関して、一般に入手できる統計情報は収集されていない。
原理的に情報収集は難しいことではない。国外で移植を受けた者は術後のケアを必要とする。医療専門家は移植ツーリズムについて知っている。移植ツーリストが自分の患者であるからだ。他人に伝えないだけである。
医師には患者情報の守秘義務があるため、医師が自分の患者の話を語ることは理に適わない。このため報告義務が必須となる。
移植患者は術後のケアを受けないわけにはいかない。移植後は生涯、免疫処方剤を服用する。報告義務により患者が術後のケアを求めなくなるという可能性はほとんど皆無であろう。
日本は、指定の国立機関に対する報告義務を定める法律を導入すべきである。指定機関が同法のもとで認定された個人を告発することはない。移植ツーリズムの全般的な統計数を把握するだけでも、現状の改善である。
患者は起訴されるべきかという議論がある。患者を起訴すべきかどうかは別として、移植濫用行為に対して助長・参与する者は断じて起訴されるべきである。患者は言い逃れや作り話を聞かされ、それに関して多く質問することはない。「見て見ぬふりをする」罪があるという議論の余地はあるが、患者は自己判断が鈍る状況で生存している。
イスラエルの法律では、臓器移植濫用に患者が参加しない法的義務を課しているが、同時にこの法規に違反しても患者を罰することはないという項目が設けられている。イスラエルの法規をそのまま用いる必要はない。患者の免責を法規する必要はない。検察官の自由裁量として扱うことも可能である。
銃創、児童虐待など、報告義務はすでに存在する。カナダのオンタリオ州では、銃創の報告義務は法律化されている。カナダのマニトバ州では銃創と刺創の報告義務が法律化されている。
カナダのオンタリオ州、ブリティッシュ・コロンビア州では、児童虐待もしくは育児怠慢の疑いのある事例を報告する義務が課せられている。マニトバ州では保護を要する子供を報告する義務が課せられている。
上記の例では、銃や刃物による暴行を防止するという価値観、児童を虐待や育児怠慢から守るという価値観が、医療専門家による患者の守秘義務という価値観より優位にある。臓器移植濫用に関しても同様であるべきだ。
この分野での報告義務は、診療を必要とする者が、通報されるのではないかという恐れから医師に連絡をとらず、患者に悪影響を与えるのではないかという懸念もある。しかし、全てを考慮し、報告義務はあった方がないよりも良い、という判断が下されてきた。社会全般にとって良いことは、銃戦や児童虐待を防止することである。臓器移植濫用にも同じことが言える。
異なる意見もあるが、少なくとも、移植ツーリズムの総件数に関するデータ収集を可能にすべきである。集計データなしでは、直面している事態の規模さえ分からない。
移植濫用は闇で行われている。加害者はできる限り情報を外に出さない。濫用の参加者は見てみぬふりをする。濫用に光を当てることが、停止への重要な助けである。
報告義務なしでは、悪循環に陥る。規模を把握していないため、問題にほとんど取り組まない。問題にほとんど取り組まないため、規模が把握されない。
効果ある自主的報告制度があれば、報告義務は不要とも言える。しかし、自主的報告制度すら存在しない事実が、報告義務制度の必要性を示している。報告義務なしでは、臓器の闇市場が闇から出ることはない。
3) 入国禁止
移植濫用に加担するものは日本へのビザ及び入国を禁止すべきである。この理念を包容する全般的な禁止事項はある程度存在するかもしれないが、現在のところ、明確なものは存在していない。臓器移植濫用に関わる者の入国を阻止する査証方針があれば、移植濫用に国外で従事する者の不適切な入国を避けることができる。
ビザもしくは入国申請者に、臓器移植濫用に関わったことがあるかを尋ねるべきである。米国の非移民用のビザ申請用紙では、全ての申請者に「人の臓器あるいは人体組織を強制的に移植することに直接的に関わったことがあるか」と尋ねる項目がある。
このような質問に対して、該当者が「はい」と答えることはないであろう。しかし、この質問事項そのものが、入国の抑止力を持ち、その国の基準を示す。同時に、「いいえ」と虚偽に答えた者にビザが与えられた場合、実際の移植濫用への関与を証明する必要なく、関与についての尋問を省いて、虚偽の回答をしたという理由から、該当者に対する国外追放あるいはビザ撤回が可能である。
4) マグニツキー法に類する法規の導入
現在6カ国で採用されているマグニツキ―法は、国家が、深刻な人権侵害者の資産を凍結し、当人の入国拒否を可能とする。認定された犯罪者名はこの法規のもとで一般に公開される。この法規を導入した6カ国とは、ラトビア、リトアニア、エストニア、カナダ、アメリカ合衆国、英国である。
同法は、腐敗を暴露し、ロシアで監獄死した人権弁護士、セルゲイ・マグニツキ―に因むもので、元のマグニツキー法は汚職したロシアの高官が対象だったが、その後、世界の地域に拡張された。汚職に限らず、深刻な人権侵害全てに適用する。
中国の高官をリストした国はまだない。最近、法輪功の主要な迫害者のリストを有効にするよう、カナダ政府に対する要請があった。
5) 人体標本展に関する法規
日本は下記を制定する法規を施行すべきである。
a) 死後、人体が展示されることに対して、本人もしくは家族からの実証可能な合意書の要請
b) 人体の入手源を示す実証可能な書類の要請
c) 監獄、拘置所、警察から人体を入手することの禁止
人体標本展に対して明確な法的措置を取った地区がいくつかある。ニューヨーク州では、2008年5月に人体標本展の主催者「プレミア・エキシビションズ」との合意に達した。ニューヨークのどの地域でも人体を展示する場合は、各身体と各身体部分の出処、死因、死者が自己の体の利用に合意していたことを示す文書を入手するというものである。
ハワイ州では2009年6月に徹底禁止を法規で制定した。「いかなる者も、逝去者の人体を商業目的で展示することを禁じる」と明示されている。
2010年7月、シアトル市では、遺体の商業的展示に関する条例を制定した。逝去者の意志、または遺体処分の管理権を有する者による合意を同条例は求める。合意を確証するために、書類の妥当性を決定するシアトル市の高官が指名されている。
フランスでは、法廷が人体標本展の閉鎖を命じた。2010年のフランス最高裁判所の判定命令は下記の基準に基づくものだった。
a) 人体の尊重は、死によって止まるものではない
b) 遺体の取扱においては、尊厳され、礼を尽くさなければならない
c) 展示されている遺体に対して、尊厳と礼を以て取り扱われたかを決定するために、法廷は合法的な出処があるか、特に本人が生前に自分の遺体を用いることに合意したかを決定する必要があった
d) 遺体が一般に公開される際、どのような状況で行われるかを検査するという法廷の要請を展示主催者が拒否した
2017年7月、チェコ共和国は、人体標本展を意識して修正された埋葬法を制定。本人の生前の合意なく遺体を展示することを禁じている。チェコの修正法では「遺体は尊厳を以て取り扱われなければならず、この理由のため、他の項目の1つとして、合意を必要とする」という内容の包括的条項が設けられており、禁止が尊厳の概念と結び付けられている点で、フランスの法廷裁決と類似している。
人体標本展は臓器収奪濫用ではない。しかし、2つは同類であり、類似した事実証拠がある。様々な人体標本展の多くの人体は中国、中国国内からのもので、警察から入手している。移植のための臓器も、展示のための人体も、良心の囚人のものであることを示す証拠がある。
日本では2010年12月から2011年1月にかけての京都での人体標本展が、京都府保険医協会などによる京都ネットワークからの刑事告発につながった。同ネットワークは「死体解剖保存法」に違反すると主張した。
1年後の2011年12月、京都地検は「主催者側の故意ではないという主張を覆すことは難しい」と判断し不起訴としている。京都地検は同ネットワークに、許可なく展示を行えば、保存法違反にあたることを主催者側に伝えたとしている。
以来、日本では樹脂化された人体の標本展は行われていない。日本における人体展は、日本医師会や展示が開催される地域の医師会などを含め、一般からの強い反発を受けてきた。しかしながら、樹脂化された人体を展示することを扱う明白な法律を制定することを勧めたい。関連しない法律の解釈に任せ、検察もしくは展示を許可するものの任意な決断、展示に反対する運動に頼ることは、解決策としては弱い。
6) 倫理基準
日本には日本移植学会による基本的な倫理指針があり、移植ツーリズムに適用されている。但し、日本移植学会は移植医が自主的に会員になる学会であり、移植手術を行うために会員になる必要はない。
同倫理指針では下記の内容が定められている:
1. いかなる理由があろうとも、国内外を問わず売買された臓器の移植を行ってはならない。
2. 国内外を問わず、売買に関与している医療施設や、医療関係者および臓器の売買を斡旋するものに患者を紹介することを禁じる。
3. 海外の医療施設に移植目的で患者を紹介する場合には、売買された臓器によって移植が行われないことを確認しなければならない。
4. 受刑中の者、あるいは死刑を執行された者からの移植は、ドナーの自由意思を確認することが困難であることから、国内外を問わず禁止する。
5. 海外の医療施設に移植目的で患者を紹介する場合には、受刑中や死刑を執行された者からの臓器によって移植が行われないことを確認しなければならない。
上記は移植ツーリズムから生じる多くの倫理問題のごく一部に取り組んでいるに過ぎない。日本移植学会は以下の倫理基準も採用すべきである。
1. 医療関係者は、渡航移植患者の付き添いをし、補償を受け取ってはならない。
照会に関して
2. 国外での臓器移植の照会をする場合、ドナーの状態を確認することなく照会するか、下記の方針に従わない場合、医師は非倫理的に行動しているとみなされる。
a) 臓器移植において個々のドナーの福利厚生が尊重され保護されている。
b) 拘束なく自発的なドナーの合意に対して疑いのある場合、医師はその臓器提供を拒否する。
3. 医療関係者は、金銭の受取の有無にかかわらず、仲介者もしくは臓器移植のブローカーに患者を紹介してはならない。
4. 医療関係者は、金銭の受取の有無にかかわらず、下記のいずれかに該当する国に患者を照会してはならない。
― 現地の法律で臓器の売却を禁じていない
― 臓器源に関する情報が透明でない
― 甚だしい人権侵害があり、法治が欠如している
― 臓器移植において医療倫理を侵害していることが知られている
広告および仲介業
5. 移植の商業化、臓器売買、移植ツーリズムの目的で、広告(電子および印刷媒体を含む)、勧誘、仲介をしてはならない。
6. 医療関係者は、臓器移植を仲介するために、国外の臓器移植機関に接触すべきではない。
説明義務
7. 透明性のある手続きと結果追跡のメカニズムを確立する。臓器提供および臓器移植手術には、透明性と安全性をはかるため、各国の保健当局(訳注:厚労省に相当)による監視と説明義務が要される。
8. 臓器提供と移植手術の手配と施行、臨床結果は、透明性があり、監査に開放的であることが要される。
患者のカウンセリング
9. 臓器疾患の末期にあり、移植手術を受ける可能性のある全ての患者は、移植ツーリズムと臓器の不正取引に関する危険性と倫理的な懸念についての情報を受けるべきである。
10. 臓器移植手術の購入に関心のある患者は、手術前と手術後のレシピエントの医療・手術管理に関する正しい専門知識を備えたヘルスケアの専門家から、移植前のカウンセリングを受けるべきである。
11. 渡航移植を購入する個人は死亡・臓器の機能不全・深刻な感染症などの合併症のリスクが高いことを、患者に伝えるべきである。
12. 以下の理由から、国外で移植を受けた者は帰国後のケアは次善となる可能性を、患者に伝えるべきである。
― ヘルスケアにあたる者は、商業化された移植に関する事前の通知や書類がほとんどない場合が多く、商業化された移植のレシピエントの術後のケアは、通常の場合に比べてより困難となる。
― 手術の手順、術後の経過・合併症に関する書類なしでは、ヘルスケアにあたる者が最善のケアを提供するに必要な情報がなく、診断も遅れ、患者の健康が危険にさらされる可能性がある。
― ヘルスケアにあたる者は、移植を行ったセンターから信頼のおける臨床情報を得ることができない可能性がある。
― 得られた情報は信頼できず実証もできない。
― ヘルスケアにあたる者は、移植ツーリズムに従事した個人もしくはセンターが出した書類の正確さを実証する能力がない。自国で不法行為に従事するそのような個人とは、医療専門家としての関係が築かれていない。
― 商業化された移植の詳細に関する不確実性は、個人的な患者のケアを危険にさらす可能性がある。
― 患者は安定期に入る前に移動させられる。
― 手術直後のケアは複雑であり、移植を行ったチームの指導を受けることが最善である。
13. 移植ツーリズムを通して臓器を提供する者に危害が加えられる可能性について、患者に伝える必要がある。
14. 中国への移植ツーリズムに関しては、臓器は強制的に摘出され、個人が臓器のために殺害されている可能性を、患者に忠告する必要がある。
15. 移植ツーリズム産業は隠匿に依存しており、金銭的な利益を動機とする臓器ブローカーが提供するドナー情報が正確であるかを確認することは不可能であることを、患者に忠告する必要がある。
16. 医師は、該当する場合、移植ツーリズムで移植を受けた患者に術後のケアを提供することは本意でないことを、患者に忠告する必要がある。
保険に関して
17. 医療や手術費のための保険は、移植ツーリズムで得られた臓器の移植に関与する司法管轄外の国での患者にまで適用されるべきではない。
18. 商業ベースの臓器移植のために渡航した国民は、官営病院から免疫抑制剤を無料で処方されるべきではない。
19, ヘルスケアにあたる者は、該当する場合、移植ツーリズムを通して得られた臓器の移植にかかる司法管轄外で生じた患者の医療費や手術費が、保険に適用しないことを伝えるべきである。
施術前のケア
20. 患者にとっての最善の利をはかる医師の受託者としての責務には、購入臓器の移植手術の準備段階に関する調査は含まれない。
21. 医師は、購入臓器の移植手術中に使われる薬剤の処方もしくは薬剤入手を助けるべきではない。
22. 国際的な人権基準を侵害する制度下での移植濫用の支援に使われる確信があり、患者もしくは臓器源を害するかなりの危険性がある場合、個々の医師は、患者の医療記録を提供しないという選択ができる。
施術後のケア
23. 緊急でない場合、個々の医者は、国外の移植ツーリズムから戻ってきた患者のケアを別の医師にゆだねる選択をとる可能性もある。このような場合、提案する別の医師に患者が適切にアクセスできるよう、医師はとりはからう。
研究と協力
24. 倫理的な臨床医療を行う医師のみが専門医師会の会員になることが許される。
25. 日本の移植医と他国の移植医の協力は、弱者を保護し、ドナーとレシピエントの間の公平を促進するものでなければならず、その他の臓器移植の基本理念を侵害するものであってはならない。
26. 臨床研究の協力は、倫理的理念に反するものでない研究である場合のみ、考慮されるべきである。例として、臓器・組織源を囚人とする研究は、倫理的理念に反する。
27. 実験的な研究の協力は、研究で使われているマテリアルが、囚人もしくは囚人からの臓器または組織を移植されたレシピエントから派生したものでない場合のみ、考慮されるべきである。
28. 患者の治療成果や療法・機械的方法を分析する、臨床の科学研究は、倫理的な理念のもとで行われた研究である場合のみ、受け入れが考慮されるべきである。
29. 囚人からの臓器や組織を移植されたレシピエントのデータやサンプルが関与する研究は受け容れられるべきではない。
30. 臨床もしくは臨床前の移植手術技術の養成において、国際移植学会の会員方針と倫理規範を受け容れない限り、養成の候補者を病院は受け入れるべきではない。
これらの基準は全て、各国内・国際的な既存の倫理指針から抜き出した。日本は上記を文字通り採択する必要はない。少なくともここで上げられた点について取り組むべきだ。
7) 国会での決議案
国会は下記を含む決議案を通過させるべきである。
a) 法輪功および他の良心の囚人の迫害を譴責する
b) 法輪功および他の良心の囚人が臓器のために殺害されているという信頼のおける継続的な証拠の存在を認める
c) 中国政府に、中国での臓器移植濫用に関しての独立調査への協力を求める
d) 臓器移植濫用の加害者を裁くよう世界各国の各州(県)に促す
既に多くの決議案が通過しているので、例として、また文言の示唆として参考にできる。1つ目は米国下院議会が可決したもので、2つ目は米国上院議会が外務委員会に照会したものである。3つ目は欧州議会が採用した決議案。4つ目はカナダ議会の外務に関する国際人権常任委員会の小委員会が承認したもので、5つめはチェコの上院議会で通過したものである。
また、2008年および2015年の国連拷問禁止委員会による中国に関する結論は、注目に値する。中国は拷問禁止条約の採択国であり、この条約を遵守しているかを定期的に報告する義務がある。
決議案の影響力は多大である。国会議員は、他国の国会議員の動向を注視する傾向にあるからだ。
国外の非政府部門が提起する懸念を、中国政府は容易に一蹴できる。中国国内では抑圧されている部門である。しかし、中国政府は、国外の議員からの懸念はより深刻に取り扱う。自国の全国人民代表大会で、少なくとも口先だけの世辞を言ってきたからだ。
8) 報告書
国会の委員会は、国外の移植濫用への加担を避けるために、どのように改善できるかについての報告書を作成・公表すべきである。オーストラリア議会の委員会では、すでにこのようなことが行われている。
オーストラリア下院議会の外務・防衛・貿易に関する合同常任委員会の人権小委員会が、「商業より思いやり:ヒトの臓器の不法取引と臓器移植ツーリズムへの調査」と題する報告書を、2018年11月に発表している。付記を入れて178ページの文書である。
臓器の不正取引と移植ツーリズムにおいて、オーストラリアができることの方向性を示すもので、役に立つ全般的な情報も多く記載している。オーストラリアの提出物、ヒアリング、報告書ですでに一般情報が収集されているので、この部分を重複する必要はない。しかし、一国の議会による調査・報告の例として習う価値はある。
9) 臓器の密輸と人身の密輸
日本政府は、臓器売買は人身売買の一部であるとみなす立場を公式に採用すべきである。臓器のために人身が密輸される場合もある。このような臓器売買は人身売買に含まれるものであり、日本はこのことを明示すべきである。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)組織犯罪・違法密輸部、人身取引・密航担当主任イリアス・シャチス(Ilias Chatzis)氏は、「国境を超えた組織犯罪協定」を補足する「人身取引の議定書」に臓器収奪が含まれていないことを指摘する。UNODC発表の「2012年版 世界人身取引報告書」では下記のように陳述されている。
「臓器の密輸は人身の密輸に分類されていない。人身の密輸とみなされるためには、生きている人間が強制的にもしくは騙されて、搾取目的で臓器摘出のために移動させられる必要がある」
臓器の密輸、臓器摘出のための人身の密輸の違いをつけることは、日本国内にとって重要とはされないかもしれない。しかし、国際的な意義は大きい。
中国は「国境を超えた組織犯罪協定」を補足する「人身取引の議定書」の締約国である。日本は2002年12月9日に議定書に署名し、2017年7月11日に加盟している。つまり日本はこの議定書に拘束されている。臓器の密輸が人身の密輸の一部となれば、中国における中国政府による臓器の密輸は、中国が拘束されているこの条約に中国が違反したことを意味し、協定を施行するメカニズムが発動される。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が差し出す議定書の解釈を日本が受け入れる必要はない。個人的な見解だが、そうすべきではないと思う。日本政府が、臓器売買を人身売買全体に含むという立場をとるならば、日本は同時に、UNODCに、「国境を超えた組織犯罪協定」を補足する「人身取引の議定書」の解釈を変更するように求めるべきである。求めた変更をUNODCがしない場合、現在の議定書に臓器売買全体が適用されるという決議案の採択を、国連議定書の次の締結国会議で、日本は要請すべきである。
10) 欧州評議会によるヒトの臓器売買禁止条約
日本はこの条約に署名し批准すべきである。2015年3月、欧州評議会はこの条約を承認した。今日まで、18カ国が署名し6カ国が批准している。条約の施行に必要な批准国は5カ国と定められているので、同条約は施行されている。
同条約は締約国に対して、臓器売買と移植ツーリズムを「犯罪行為」と確立することを求めている。この条約は、欧州評議会の加盟国、EU、および欧州評議会に対してオブザーバーの立場にある非加盟国が署名することができる。また、欧州評議会の非加盟国は、閣僚委員会の招待により署名することもできる。日本は希望すれば、このような招待を導き出すことができる。
11) 中国との二国間対話
日本政府は、中国との二国間対話において、臓器移植濫用に関する懸念を提起すべきである。国際的に現在、数多くの二国間、多国間の人権に関する対話が行われている。
中国が日本と人権に関して対話する可能性は充分ある。その席で、臓器移植濫用に関する懸念が提起できる。いずれにせよ、日中間の対話は現在行われており、人権に関する懸念を導入することができる。このような対話の実現は困難ではない。このような対話を実りあるものにすることが課題である。
カナダの学者・コンサルタント、チャールズ・バートン氏は報告書で、どのように実りある対話を築くかについて丁寧に解説している。同報告書では、カナダと中国の二国間対話に関して下記の懸念が列記されている。
- 中国外務省は原稿を読み上げるだけの対話で終わる。この原稿は、年間を通して様々な国との対話で繰り返し読み上げられる。
- 対話と実践的な進展の間にほとんど関連がない。成功の基準もしくは客観的な指標の設定が難しい。
- 中国外務省は、派遣団長に格の低い人材を用い、人権部門の職員を減らしており、外国との対話への取り組みを軽減していることを示している。
- 中国の経済成長がもたらす権力に付随する中国でのナショナリズムの台頭により、中国政府は、これ以上、人権に関して非難されることを望まない。
- 中国側は対話の設定をわざと引き伸ばし、欧米諸国はこの件の要求を出す一方だというシグナルを送る。
- 懸念事項のリストに対して、中国側は、カナダ政府が期待するほど完全な対応をしない。対応の度合いはその年によって大幅に異なる。
- 対話のプロセスに関する皮肉が広がっており、対話への疲れも始まっている。
しかし、バートン教授は、対話の放棄を示唆することはせず、より実りある対話にするための方法を提案している。人権に関する中国との二国間対話を充実したものにするための彼の示唆は、日本を含め、このような対話に従事する全ての国が考慮する価値がある。
12) 国際的な例証
日本国政府は、国連人権理事会を含む、多国間の関わる状況で、中国での臓器移植濫用に関する懸念を表明すべきである。2018年9月の国連人権理事会のセッションでは、カナダ、英国、EUを代表するオーストリア、フランス、ドイツなど多くの国々が、議題の第4項目(理事会の注目すべき人権状況)のもとで、中国での人権侵害への言及も含む声明を出した。
理事会のメンバーではないことは、理事会での投票を阻むかもしれないが、理事会で声を上げることは阻まれない。全ての国連参加国が、理事会のメンバーであるかないかにかかわらず、理事会の議題に関して発言することはできる。
人権理事会は年に3回の定例会を設けている。3月に4週間、6月に3週間、9月に3週間である。9月の人権理事会の定例で、中国に関して法輪功もしくは臓器移植濫用についての声明を出した国はないが、この状況は変えることができ、変えるべきである。法輪功の迫害と臓器移植濫用は、日本、その他の国が提起することで、今後の人権理事会の定例会で常に懸念されるべき事項となるべきである。
結論
日本は中国への臓器移植ツーリズムを撲滅するための行動をほとんど起こしていない。問題が小さすぎて時間を割く価値がないというのが理由と考えられるかもしれない。しかし、実際はこの逆であり、日本にとって問題が大きすぎて、問題を把握すること事態が困難な状況にある。
日本はこの濫用に系統的に取り組む必要がある。日本がどのように取り組めるかを、アクション・プランとして上記に提案させてもらった。