ノルウェーでの臓器売買に関する法律改正
ニコラス・ストロンベック
2017年6月8日、ノルウェー政府は国内の臓器移植法を改正しました。欧州評議会で通過した「人の臓器売買撲滅」(条約216)の批准と実施のため、不法に移植される臓器の商業目的での使用に焦点をあてたものです。同条約に従い、ノルウェーの法規は人の臓器売買を防止し撲滅させるものです。このため、条項違反の場合の懲罰が重くなっています。
背景
ノルウェーは、2015年3月25日に人の臓器売買を禁止する条約に署名した最初の国に数えられます。アルバニア、オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、ポーランド、ポルトガル、モルドバ共和国、スペイン、トルコ、イギリスも並んで署名しました。以来、アイルランド、ラトビア、ロシア連邦、スイス、ウクライナも加わりました。現在のところ、アルバニア、ノルウェー、モルドバ共和国が、条約を国内法に批准しています。
この条約の目的は、特定の行為を国内法で犯罪とし、臓器売買を防止し撲滅することにあります。加盟国はこれらの行為を撲滅するために、国内レベル、国際レベルで連携し、効果的に実施されるように、明確なメカニズムを設定する必要があります。
ノルウェーの法律の主な改正内容
2017年6月16日付のノルウェー法nr.54において、下記の国内法が改正されました。
・刑法(lov 22. mai 1981 nr. 25 om rettergangsmåten i straffesaker)
・移植法(transplantasjonslova, lov 7. mai 2015 nr. 25)
・剖検法(lov 7. mai 2015 nr. 26 om obduksjon m.m.)
・医療とヘルスケアの研究に関する法(lov 20. juni 2008 nr. 44 om medisinsk og helsefaglig forskning)
移植法の最も重要な改正点を以下に翻訳と略語で記します。
§ 1.2:「この法律の目的は、臓器売買の防止と撲滅でもある」
この第一条への追記は条約第1.1a条を実施するものです。第1.1a条は、条約の主目的の一つを明確に批准し、移植臓器への安全なアクセス、臓器提供者への尊重とケアを法律の目的とする第一条の最初の文を補完します。
§ 2.2 第1節:「この法律は、生きた人間の臓器、細胞、組織を別の人間に提供・移植することを含めた、あらゆる行程に適用される。この法律は、§§ 5、6、7、10、12、13、16、20のいずれかの規定に違反するか、その他の関連措置により、摘出された臓器にも適用される」
この条項は、§ 2の追記であり、臓器の不正な摘出・使用が、そのような摘出・使用の目的にかかわらず、法律によって処罰されるようにしています。この条項は、欧州評議会の条約 第5項が課することに準ずるものです。
§ 20:商業目的とする搾取の禁止
「人間の臓器・細胞・組織を摘出・挿入・使用し、金銭的利益またはそれに類するメリットを得ること、そしてこのような利益やメリットを要求・提供・受領・授与をすることを禁止する」
§ 20は以前の規定から改定され、人間の臓器の商業目的での搾取を全て、明確に一概に禁止しています。
§ 23 a 刑罰:「故意または重過失により§§ 5、6、7、10、12、13、16、17、19、20のいずれかの規定を違反する者、またこれらの規定に関する法的規制に違反した者は、罰金または二年以下の懲役に処する。§§ 5、6、7、10、12、13、16、20のいずれかの規定に反して違法に摘出された臓器を使用、購入、保管、保存、輸送、移転、受領、輸入、輸出する者にも同様に適用される」
§ 23 b 重大な犯罪に対する刑罰:「§§ 5、6、7、10、12、13、20に規定された重大な犯罪の規定を違反した者、またこれらの規定に関する法的規制に違反した者は、6年以下の懲役に処する」
第一ランクの犯罪に対する刑罰は2年以下の懲役に引き上げられました(第23a条)。この規定は、不法の臓器摘出と連携する一連の行為に対するあるべき法を特定し、法律により処罰されるようにしています。さらに、いかなる目的にも関わらず不法に摘出された人の臓器の使用は、法律によって処罰されるという欧州評議会の条約の要求にも応えています。
重大な犯罪に対して罰金から懲役6年以下の刑罰に至る新たな規定(§ 23b)が組み入れられました。重犯罪の定義には、被害者の年齢、暴力や強要があった場合などの行為の性質と深刻さを考慮する必要があります。
コメント
ノルウェーはアルバニアとモルドバ共和国に続き、条約に批准した3つ目の国です。欧州評議会の条約の要請と提案に対して否定の余地のなく敬意を払い、国内法の改正が行われました。
おそらく、最も重要な改正点は、§ 1に加えられた変更であり、国内法がこれらの類の犯罪を防止し、撲滅するという明確な目的が述べられています。私見ですが、最も簡素ながら最も大切な国内法の改正といえましょう。欧州評議会の条約の主な目的に言及しているからです。これらの法規を重要視せず、中国での現状のように、公には全く犯罪を認めない国々に対し模範を示す意味で、十分に整備された法規とヘルスケアなどに優れたノルウェーのような西洋諸国がこの問題に明確な立場を表明することは極めて重要です。
さらに、ノルウェーの国内法は、このような行為の背後にある意図が何であれ、人の臓器の不法摘出はどのような種類であっても確実に法で罰せられるよう考慮されています(§ 2)。これは、欧州評議会の条約の第5項を施行する上で必要な国内法の改正でした。この点において、欧州の条約は国内法より高いレベルを要求しています。言うまでもなく、こうした行為を犯罪行為として強化する立場をとる上で歓迎すべき展開です。現時点ではスウェーデンの国内法では明確にされていません。スウェーデンの国家立法(Lag (1995:831) om transplantation m.m. § 15; Lag (2006:351) om genetisk integritet m.m. § 6)は、これらのような行為の禁止は一般的なもので、欧州の条約に照らしてみると、これらの行為を犯罪とみなす解釈に余地を残しています。
懲役刑の刑期(§ 23a-b)の改正に関しては、これも欧州評議会の条約の第12項の施行のために必要なものでした。第12項では、制裁は「効果的、釣り合いがとれ、制止につながるものであること」としています。立法過程で、6年以下ではなく10年以下の禁固刑にするべきだという提案もありました。臓器摘出犯罪は、刑の1年から6年以下の懲役が課せられる身体の軽視および傷害罪などの暴力犯罪の罰則と比較されました。2016年12月11日、イタリアの法律は、似たような犯罪に対して罰金30,000~500,000ユーロと懲役3~12年を設定しています。スウェーデンの国内法は、重犯罪に対する制裁が全く欠けています。私は、これまでに見てきた国内の規定は、罰則の面でゆるいと見解しています。西洋社会ではこれらの犯罪を人身傷害などの犯罪に該当させているようですが、中国などこれらの犯罪が突出する国では、環境が悪くアフターケアも基準に達していなければ、臓器を摘出された被害者の生存の可能性は低いので、これらの犯罪は殺害、少なくとも過失致死罪と比較されるべきです。この「制止」すべき犯罪は、傷害罪のような個人に対する犯罪ではなく、人道に対する犯罪であるため、より慎重に考慮すべきです。