国際的な法律事務所グローバル・ライツ・コンプライアンス(Global Rights Compliance:以下GRCと略称)が「害をなすなー移植医療に関わる機関や医師たちとの交流が人権侵害をもたらすリスクを緩和するためのアドバイス」と銘打った『法的な助言としての報告書』と『政策の指針』を2022年4月27日に発表。
英語サイト:
https://globalrightscompliance.com/project/do-no-harm-policy-guidance-and-legal-advisory-report/
報告書は臓器売買を取り扱い、特に中国をリスクの高い国として焦点をあてている。世界の移植医療に特定したビジネスと人権に関するアドバイスとしては世界初のもの。
以下は2022年11月11日(金)〜12日(土)に、「国際臨床生命倫理学会(International Society for Clinical Bioethics: ISCB)」第19回年次大会(共催:岡山生命倫理研究会および釧路生命倫理フォーラム)で、ETAC Japanが英語でプレゼンテーションした内容を日本語でまとめたもの。
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◎ グローバル・ライツ・コンプライアンスとは?
国際人権法を専門とする法律事務所。2013年に設立された非営利団体。本社はハーグ。 国際法の革新的な適用を通じて正義を実現することが目的。
プロジェクトを率いるのは、グローバル・ライツ・コンプライアンスの設立者、マネージング・パートナーのウェイン・ジョーダッシュ弁護士。国際人権法・人道法、特にハイリスク地域や紛争地域を専門とする世界有数の法律家で、政府、国際機関、企業、コミュニティに対し、国際人権法および国際人道法の遵守方法、人権リスクの管理方法、国際人権法および刑法制度における救済方法についてアドバイスを提供することを専門としている。また、アカウンタビリティや人権デュー・ディリジェンス、人権調査、事実調査団のあらゆる側面について、世界各地でアドバイスを提供。ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪の申し立てに関して、国際刑事裁判所や国際司法裁判所など、国際法廷のグローバルネットワークにおいて国際的に認知された専門家でもある。
◎ 報告書の要点は?
移植医療、研究、トレーニングで国際協力した場合の人権侵害のリスク、法的義務について探る。医療機関、移植関連団体、医療従事者をステークホルダーとし、その中で医療機関、移植関連団体を対象とする。
「人権状況の悪い国の医師と1対1で仕事をしていると、医師個人が正しい倫理的行動をとることは非常に難しいので、法律事務所が医療機関に圧力をかけてくれるのはありがたい」と医療従事者がDAFOH(臓器の強制摘出に反対する医師団)の座談会で述べている。
参照:臓器収奪(10)中国に関わる人々の責任
http://ishokuiryo-think.info/2022/09/25/foh-10-do-no-harm/
◎ 人権侵害のリスクとは?
グラフで深刻さの度合いを表示

下から…
倫理的臓器移植 Ethical Organ Transplantation
インフォームドコンセントの上、自発的意思により提供。金銭もしくは対価の授受なし
非倫理的臓器移植 Isolated instances of Unethical Organ Transplantation
強制的な臓器提供だが、突発的なもの。金銭もしくは対価の授受あり
臓器売買 Organ Trafficking
人身を移動させ、臓器を強制的に摘出。金銭もしくは対価の授受あり。潤沢なビジネス
→移植ツーリズムには臓器売買、商業化、国外の患者が国内の資源を利用する。
US$8.4億から US$ 17億市場。世界の移植の10%以上に当たる。
インド、パキスタン、エジプト、レバノンで特に多く見られる。
生体臓器収奪 Forced Organ Harvesting
ドナーは金銭を受け取らない。ドナーになることも知らされない。臓器摘出により死亡する場合が多い。良心の囚人が標的。今も続く。
→証拠
「中国(臓器収奪)民衆法廷」2019年6月裁定発表。2020年3月資料付き600ページの書籍発行国連特別報告者と人権の専門家 中国での生体臓器収奪を深く懸念するという書簡を中国に提出
◎ 人権デューデリジェンスとは?
“医療機関や移植関連事業者が人権侵害のリスクや人権への悪影響を特定し管理する積極的な行動 で、価値観、供給チェーン全体に及ぶもの。
◎ どのような法律が関わるのか?
国際刑事法では、他人が犯した罪に対して個人が責任を負う、さまざまな形態と程度の刑事責任を規定。 幇助も含まれる。
たとえ何が起こっているかを知らなくても、たまたま犯罪を助ける立場にあったなら、告発される。 生体臓器収奪のために働く医師を養成したり、生体臓器収奪で得た臓器をもとにした研究論文の発表も含まれる。
◎ 対応策は?
法に触れることを避けるために、グローバルライツコンプライアンスでは、以下の3つのステップを提案。
1) 非倫理的な臓器移植への関与・斡旋を防止するための人権政策コミットメントの確立。
->文書作成だけでなく、そのための責任者を設置することが重要。
2)非倫理的な臓器移植のリスクを特定、防止、緩和、説明するための継続的な人権デューデリジェンスの実施
3)非倫理的な臓器移植を防止、軽減、是正できない場合はパートナーシップを解消するなど、相互の関係を通じて生じた、あるいは助長された損害を是正する。
海外で働く医師は、生体臓器収奪に気づいていても、どこに報告したらいいのかわからない。そのため、人権デューデリジェンスの実施体制を整えることは極めて重要。
◎ 世界の動向は?
人権デューデリジェンスは政府や機関レベルで行われている。
1)英国:医療法改正で移植ツーリズムを禁止。現在は購買法改正の改正審議中。生体臓器収奪を幇助する企業との契約を阻止する改正案。
2)国際心肺移植学会が中国からの学術論文を拒否する方針を発表。
ETAC 英語版のプレスリリースはこちら。