生命倫理・先端技術に関するブログ
人体の展示 ― 誰の遺体かにこだわるべきか?
(このブログには読者に不快な気持ちを与える内容・画像へのリンクが含まれています)
トレヴォー・スタマーズ
今年(2018年)初め、バーミンガムのNECで行われたReal Bodies展は数千人の来館があった。同じくプラスティネーション(樹脂化)された死体だが、ライバルのコレクションとされるBody Worlds展が、先月(9月)、ロンドンで常設された。
Imagine Exhibitionsのウェブサイトでは、Real Bodies展を「自分を探索し自分がどこから来たのかを自問する旅に誘う」と謳い上げているが、これらの人体がどこから来たかを来館者に問われることにはあまり乗り気ではないようだ。最近、私は、英国議会内で開かれた会合で、人体の多くは中国からのもので、拷問された可能性のある良心の囚人の遺体が合意なく樹脂化された可能性があるということを耳にした。
オンラインでこれらの展示をリサーチしながら「中国」という言葉を加えると、公式サイトで提示されている内容とは全く異なるものが現れてくる。Body Worldsを設立したグンター・フォン・ハーゲンス教授は、2004年に、自分の展示に使われている人体が中国の処刑された囚人(訳注:左記リンクを読むには英ガーディアン紙の購読が必要)から来た可能性があることを認め、7体を埋葬のために中国に返還している。フォン・ハーゲンス教授のプラスティネーション用の人体加工工場は大連にあり、その近くには中国の政治犯の収容所が3軒ある。政治犯の多くは中国で禁止されている法輪功のメンバーである。Body Worlds展に似た展示はフランス、イスラエル、チェコ共和国で禁止された。
2008年、ニューヨークでの訴訟を受け、Bodies展は最終的に以下の免責声明を発表することを余儀なくされた。「中国の市民もしくは居住者の遺体を展示しています。もともと、中国の警察が受け取ったものであり、中国の警察は中国の監獄から遺体を受け取った可能性があります」ニューヨークでの展示の事例に関してスポークスパーソンを務めたトム・ザラー氏は、最近のバーミンガムでのRealBodies展の背後の会社の社長である。神経科医が、中国の囚人の遺体が用いられている疑惑を懸念する苦情をバーミンガムの検死官に提出したことを受けて、ザラー氏は以下のように述べたと報道されている。「私どもの展示内の標本は全て、引き取り手のいない遺体です。引き取り手のいない遺体とは、警察が親族を認定もしくは探し当てることができなかったものを指します。」(BBCニュースの記事を参照されたい)
遺体を公共の展示に利用することへの合意の欠如と、医科大学への遺体の提供源が収容所に近いことからだけでは、現在、英国で中国人の囚人の遺体が展示されている証拠にはならない。しかし、疑問は解消されていない。良心の囚人の樹脂化された遺体を入場料を払って観ているのではないと、一般が確信できない限り、このような展示を「楽しむ」価値は薄れてしまう。「なんでこだわるの?すでに死んでいるのだから死者は苦しまないでしょう」という見解もあるかもしれない。しかし、死者も不当に扱われる。合意のあった成人からでなく処刑された反体制派の遺体を展示することは、少なくともこの倫理学者にとってはひどく間違ったことに思える。
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トレヴォー・スタマーズ博士:
セントメアリー大学(英国ロンドン、トゥイッケナム)倫理プログラム担当理事
The New Bioethics編集者