日本向けに特別に書き直された原稿です。
中国の移植医と保健担当官の
招聘・訪問についての所見
デービッド・マタス
中国の移植医や保健担当官は、国際的なつながりや協力体制を確立し維持していくことに尽力してきました。彼らは、日本での会議に参席し、日本の大学で講演し、日本の病院と協力してきました。また彼らは、日本の移植医や保健担当官が中国での会議に参席し、中国の大学で講演し、中国の病院と協力するように、招いています。
中国の移植医・保健業務に携わる者は、これらのつながりを利用して、臓器移植濫用が続けられているという証拠を否定してきました。自分たちが否定する証拠に直面したり回答したりしなくてよい場を設定しています。
多くの人々がこのような一方的なもてなしに異議を唱えています。これらの異議に対して、一方的なイベントは次々と正当化されています。彼らの主張する正当性に対する所見を述べたいと思います。
1) 彼らの主張する正当性
学術的なイベントを意図して主催している。中国の保健担当官や移植医は、現在のデータや現在の経験に基づく学術的なプレゼンテーションを行っている。
私の見解
中国共産党は積極的にとりつくろいます。無実の人々の血糊に染まった手を、国外の無実の人々をだますことで洗おうとします。中国の移植医と保健担当官は、長年に渡り中国共産党のプロパガンダを作り上げ、繰り返してきました。プロパガンダが変わると、自分の意見も都合の良い方向に変えるため、発言も矛盾しています。中国人が招く人(ゲスト)や中国人を招く人(ホスト)がこのプロパガンダの形成に積極的に関わるのなら、学術的なイベントとは言えません。
2) 彼らの主張する正当性
私のように臓器移植濫用を調査する者は、係争的で根拠のない政治的な主張をくりかえしている。
私の見解
中国共産党のスポークスパーソンが、国外のホストやゲストは学術的で、真面目に学術調査を行ってきた者を政治的な根拠のない主張をするだけと片付けることは、現実を否定することになります。私や他の者による調査の学術性は、抄録の検討後に受け入れられる幅広い学術会議での発表が受け入れられている事実、刊行物、大学での講義の招聘からも示されます。
私たちの調査には政治的な動機づけがあるという国外のホストやゲストの主張は、中国共産党のプロパガンダと重なります。また、中国共産党も、臓器移植濫用への批判には法輪功の政治的な動機があると語ります。
法輪功の学習者が、中国で自らが対象となっている人権侵害に反対することは事実です。しかし、人権は政治的なものではなく、普遍的なものです。
3) 彼らの主張する正当性
中国で無実の良心の囚人が臓器のために殺害されていることを懸念する者は、EU議会や2016年6月の米公聴会のような中国を譴責する政治的イベントに参加している。
私の見解
いうまでもなく、中国での移植濫用に関する私どものような独立調査に関心を寄せる政治家も、数は限られていますが存在します。これらの政治家が関心を寄せていることが我々の活動を政治的なものにすることはありません。
4) 彼らの主張する正当性
国外のイベントに招かれたり、国内のイベントを主催する中国の高官や専門医は、制度の改革に努めている。
私の見解
証拠を提示することなく、明らかに政治的な意図から、中国共産党は我々の調査の帰結を拒絶しています。しかし結論にいたるまでの証拠はほとんど中国の公式データを基盤としています。例えば2016年の報告書に記載した2400の注釈のうち、2200は中国政府による公式数値をもとにしています。
中国政府の声明に示されている、中国のホストやゲストが中国での臓器移植濫用に関与している事実は、深い問題です。例えば、黄潔夫・元衛生副部長がフェニックス・テレビでインタビューされたときの抜粋が、ifeng.comに2015年1月に下記のようにポスティングされました。
「記者:処刑された囚人から臓器を摘出した経験はおありですか?
黄:一度、行ったことがあります。摘出はしませんでした。それ以降は行きたいとは思いませんでした。私は医師です。生命を尊重し、患者を助けることが、医師の道徳の最低基準です。聖なる場所で行なわれるべきことです。そうでなければ、医師としての最低の道徳基準に反します。
記者:何年のことですか?
黄:1994年です。
記者:ヒトの臓器移植を行った最初の年ですか?
黄:そうです。移植チームは2つに分かれています。臓器を摘出するドナー・チームと、臓器を移植するレシピエント・チームです。
記者:黄先生は?
黄:私はレシピエント・チームです。ドナー・チームに入ったことはありません。しかしどのように行なわれるのかを学び取るため、一度見学しました。この一度を体験して以来、ドナー・チームとは関わりたくないと思いました。しかし、変革の必要性は感じています」
犯罪法ではこのような行動を指す「故意の無知」という用語があります。悪事を犯した者が故意に無知であったとしても、十分な知識をもって悪事を犯した者と同様に罪があるとするものです。
黄潔夫は、どうしようもないと感じたと言っていますが、実際は、不当に入手した臓器を使う移植手術に「参加しない」ということができたはずです。黄が「ドナー・チームとは今後関わりたくない」と思ったのならば、移植をやめるべきでした。ドナー・チームからの臓器を利用しているのに、ドナー・チームとは関わっていないという観念自体が、幻想です。
臓器狩りが医師としての道徳の最低基準に反するのであれば(そして黄潔夫は認めています)、不当に入手した臓器を用いる移植手術も医師の道徳の最低基準に反するものです。不当に臓器を摘出することにも、移植医が不適切であると知りながら、あるいは故意に知らないようにしながら、移植手術を行うことにも、道徳の面では何の違いもありません。
5) 彼らの主張する正当性
国外の移植医のホストは医師としての同僚であり、敬意を払って招き返すべきである。
私の見解
移植医と臓器移植濫用の調査者が、中国での臓器移植濫用問題を提起することで、異なる専門家が異なる視点を交換できます。
私は移植技術の知識があるふりはしません。たとえ許可されても、手術室に入って移植手術を試みようとは夢にも思いません。試そうとしたら手術はめちゃくちゃになり、患者の生命を危機にさらすことでしょう。しかし、私は人権侵害全般、そして特に中国での人権侵害問題の扱いに幅広い経験を備えています
人権は全人類に属する権利です。この権利は全ての人々が主張すべきものです。しかしながら、人権には専門知識というものがあります。国際人権法の知識、人権侵害者の言説・行動パターンの熟知、歴史からの教訓などです。人権の専門知識や経験のない者が人権について知っていると思い人権問題を率いることは、私を手術室に入れた場合に生命が危険にさらされるように、危険なことです。
6) 彼らの主張する正当性
国外の移植医のホスト・ゲストも、臓器移植濫用の調査者も、目標は同じだ。中国で処刑された者の臓器を用いることを止めることだ。
私の見解
私の目標は下記の三点において、ここで提示された目標を超えるものです。
a) 良心の囚人の臓器を用いることを止める
b) 過去の濫用についての完全な釈明
c) 犠牲者および生存している家族のための正当な裁き
目標が共通しているだけで、互いに同意すべきだということにはなりません。手段が問題です。極端な例として、ナチスドイツとユダヤ人コミュニティーは、第二次世界大戦の前も大戦中も、より良い世界を作ろうという同じ目標を抱いていたが、手段が異なったと言うこともできるでしょう。手段の違いが肝要なのです。
7) 彼らの主張する正当性
中国の臓器移植濫用に関する米下院議会での公聴会は、オバマ政権を戸惑わせるために共和党のクリス・スミス議員とダナ・ローラバッカー議員が行った。
私の見解
発言は内容から判断されるべきであり、動機づけを推し量って却下されるべきではありません。真実を語る者の動機が不純ということは、真実を無視する言い訳にはなりません。
法律家として、「善意」を仮定するように養成されてきました。仮定は証拠によってくつがえせますが、推量によってくつがえすことはできません。
中国での臓器移植濫用に関する公聴会を行った下院議員に悪意を抱かせることは、誰でもできることです。米下院議員が悪意から行動したと主張するなら、国外のホストやゲストに対しても同じ主張ができます。臓器移植濫用を終わらせることではなく、移植の濫用に目をつぶり、改革を偽る中国を支持するふりをすることで、中国幹部から赤い絨毯のもてなしを受けることが彼らの真の動機だと言うこともできます。
しかし、私は国外からのゲストに対して、このようなことは主張しません。なぜならゲストは善意から行動していると思うからです。国外のホスト・ゲストも、米議員に対して同様の礼儀を抱くべきです。
いずれにせよ、米国の政治の外側にいる者として、共和党であるだけで共和党を退けることは賢明ではありません。現在の米議会は上院下院とも共和党が与党であり、米国の知事や地方議会の大半も共和党が占めています。しかし、共和党が少数派であっても、内容の判断に基づいて発言すべきであり、動機づけを推量して発言すべきではありません。
さらに、二人の議員から聞いたことをここでお伝えする価値があるかと思います。二人が討議にもたらしたものは、中国での人権濫用に取り組んできた長年の経験でした。私よりかなり豊富なものでした。移植濫用に関する中国の言論は、他の数多くの記録されてきた中国の人権侵害に関する言論と似ていることを指摘しました。
スミス議員は、天安門事件、強制堕胎、避妊手術、拷問、強制労働所、セックス売買、検閲、刑務所の状況に言及しました。国際移植学会のフランシス・デルモニコ元会長に下記の質問をしました。
「黄潔夫は誠実かもしれませんが、中国政府側の二枚舌、虚言、欺きを背景として、2016年に国外の顧客のための臓器売買はゼロにするという彼の言葉を、どのように独立した形で実証するのですか?」
デルモニコ元会長は「実証するためにここにいるのではありません。私の仕事ではありません」と答えました。
8) 彼らの主張する正当性
国外の移植医は、中国を訪れることで、移植濫用の削減を認識できる。
私の見解
減少と停止には違いがあります。中国全域を訪れる国外の移植医が、訪問先で、移植濫用は減少したと言われることは受け入れます。しかし、実際に減少されているわけではありません。みせかけの施設の背後を見るために国外からの訪問者は何をしたのでしょうか?
過去はどうあれ、次の2点が大切です。1つは訪問を事前に知らせないことです。中国では事前にお膳立てされた訪問は、取り繕われたものになることは間違いありません。中国は長い間、刑務所の視察を手配し、刑務所の現状を国外の訪問者から隠してきました。もう1つは国外からの視察者が、患者とドナーの両方のカルテの原本にアクセスすることです。
9) 彼らの主張する正当性
移植濫用の調査者は、実証できないデータを提供してきた。
私の見解
調査が実証できないものであるとは、調査を吟味しない者だけが言えることです。イーサン・ガットマン氏、デービッド・キルガー氏と私が行った調査は、10年以上にわたるもので、実証可能なだけでなく、実証されたものです。単純な理念に基づいています。調査の外で我々が見たり聞いたり読んだりするものは、誰でも見たり聞いたり読んだりできるものです。噂や又聞きは避けました。
実証不可能という主張は中国共産党のプロパガンダを反映しています。私たちの調査が実証不可能という声明は、私たちの調査に対する中国共産党の通常の反応です。
具体例を挙げましょう。2007年5月30日、イスラエルに行きました。テルアビブ近くのベイリンソン病院で臓器移植に関するシンポジウムに出席するためです。中国大使館がイスラエルに対して、法輪功修煉者の臓器狩りに関する我々の報告書に関する次のような声明が回覧されました。
「情報源のない口伝えの証拠、実証不可能な証言、「恐らく」「可能」「たぶん」「と言われる」など、説得力のない結論の表現。これら全てから報告書の信憑性に疑問が生じる」
この声明を受けて、私は報告書の初版と2版で、「恐らく」「可能」「たぶん」「と言われる」の語を検索しましたが、結論に関する内容で、それらのことは一度も出てきませんでした。これらはネット上に掲載されていますので、ご自分で検索していただけます。
デービッド・キルガー氏、イーサン・ガットマン氏と私による2016年の最新報告書はwww.endorganpillaging.orgに掲載されています。この所見を書くにあたり、「恐らく」「たぶん」「と言われる」の語を検索しましたが、全く出てきませんでした。「可能」は2ヶ所に出てきましたが、結論とは関連のないところでした。680ページ、脚注2400(うち2200が中国の公式データ)で構成された報告書です。
10) 彼らの主張する正当性
移植濫用の調査者が提示するデータは最新のものではない。
私の見解
2016年6月に発表された、デービッド・キルガー氏、イーサン・ガットマン氏、私の三人による共同調査報告の作業は2015年9月に始まりました。全ての内容は現行のものです。全ては、2015年1月より囚人を臓器源とすることを停止するという中国側の主張のあとのものです。
中国の高官は、調査者がデータ・ストリームに言及すれば、常にアクセスを阻止し、サイトを取下げ、データを変更してきました。つまり、我々が引用したデータを検索することを不可能にしてきたのです。
11) 彼らの主張する正当性
中国の移植医と保健担当官による国外の同僚の招聘・訪問は、幅広く支援されている。
私の見解
中国外で臓器売買問題について講演できるイベントの機会は支持します。しかし、中国の移植医と保健担当官による国外への招聘・国外からの訪問が、幅広く支援されているということとは異なります。私だけでなく他に多くの者が、臓器売買問題を扱い、臓器移植濫用への共犯者、弁明者に異議を申し立てる機会となるイベントを支援しています。
12) 彼らの主張する正当性
臓器売買や移植濫用を撲滅するために、国外への招聘・国外からの訪問が生み出す可能性は、中国の負の歴史を遥かに上回る。
私の見解
第二次世界大戦中、ヨーゼフ・メンゲレ博士(訳注:ナチス親衛隊将校。アウシュヴィッツで囚人を用いて人体実験を繰り返した)が参席する、手術技術に関する会議、大学での講義、病院との協力が、ドイツの国内外であれ、メンゲレ博士のプレゼンテーションを含む会議の焦点は学術的なものに過ぎないとし、 外科の濫用を停止する可能性は、ナチスドイツの負の歴史を遥かに上回るものであると弁明するのと同じことです。だれが出席するかが重要です。
りんごは1つ腐っていれば樽ごとダメにしてしまいます。中国で良心の囚人を犠牲にする移植濫用は存在しないか、もはや存在しないという実証のない憶測は、中国での移植濫用を停止する努力を衰えさせてしまいます。日本の移植医・保健担当官は、どのような状況でも、否認されない憶測が広がる土台を許してはなりません。