「新疆で行われたこと」
中国での核実験から継承された 倫理にもとる医療行為
イーサン・ガットマン
アニワル(エンヴァー)・トフティ医師が提示された情報を受けて、お話しさせてください。歴史は必ずしも過去のものではありません。人道に反する犯罪は、特に幅広く世界に取り上げられていない場合、さらに大規模な犯罪へと発展する可能性があります。私がこれからお話しする「良心の受刑者からの強制的な臓器収奪」は、過去のものではなく、今、行われているのです。
核実験における人体実験は、ウルムチの市民の場合は受け身的でしたが、爆心地の近くに配備された、生きている囚人の場合は、意図的なものでした。こうして、ウイグル人は被験者になりうるという前例が生み出されることになりました。新疆全域が、機密実験場の地域・空間として見なされ、人命の価値はほとんど考慮されませんでした。実際、ソ連の情報源によると、1960年代、1970年代に核実験が行われたロプノールには、発酵工場や生物学的な封じ込めを行う研究所を備えた複合施設が建設され、細菌戦のためのウイルスが作られていました。1970年代のスヴェルドロフスクでの炭疽菌の漏出事故から、生物兵器の生産には「感染」というハイリスクが伴うことをソ連は学びました。1980年代後半、中国北西部で前代未聞の様々な種類の出血熱が2度にわたって伝染し、ウイグル人がその被害者となりました。
同じ時期に、新疆は、移植のための臓器収奪の実験の中心地となりました。これから申し上げることは非常に重要な点です。移植用の臓器がなぜすぐに入手できるようになったのかを理解するには、臓器収奪がどのような時間の経過で発展してきたかを考察する必要があります。1980年代、囚人を処刑したあとの思いつきで、便宜性から臓器が摘出されました。1990年代半ば、処刑場に手術用ワゴン車をみかけることは日常のこととなり、生きている人間からの臓器収奪が新疆の処刑場で実験的に行われていました。
1994年、ウルムチ公安局第一連隊のニジャット・アブドゥリム氏は、中国北西部の新疆内の処刑場に駐車された臓器収奪用のワゴン車の中から、叫び声を聞いています。
1995年、トフティ外科医は、射撃された受刑者から肝臓と腎臓を摘出するよう命令されました。殺傷する目的でなく、身体をショック状態にするために射撃されたのです。彼が臓器を摘出したため、受刑者は亡くなりました。
1997年、グルジャでの大虐殺のあと、地元の病院では、ウイグルの新生児を対象とした嬰児殺しが始まりました。グルジャのウイグル人を事実上、一人っ子政策の枠にはめ込んだのです。そしてウルムチの収容所の政治犯、ウイグルの活動家たちは、年老いた一握りの中国共産党幹部のために臓器を収奪されました。
これらの臓器は、不確定な「戦場の霧」の中の単なる戦利品なのかもしれません。「良心の受刑者からの臓器収奪」はウイグルだけで止(とど)めることができたのかも知れません。しかし、歴史は水のように引力に沿って流れます。1999年、中国共産党政権による大掛かりな法輪功撲滅運動が始まりました。2001年までには、労働改造制度のもとで監禁された100万人以上の法輪功修煉者が移植用臓器の検査を受けており、中国の軍も民間も、移植用の病院設備をハイピッチで建設していました。2002年までには中国家庭教会(全能神)、2003年までにはチベット人も標的とされました。
2005年までには、 日和見主義経済が、二つの隠れた要素に置き換えられます。一つは資本主義の5カ年計画で、もう一つは国内の異論者を殺害したいという中国共産党の欲求です。その結果、国外からの患者が2週間以内で組織結合する臓器を購入できる移植ツーリズムが可能となりました。 年間6万~10万件以上の手術ができる移植センターが各地に整いました。極悪犯の臓器を収奪したことになっていますが、この中国の移植業界の台頭は、法輪功修煉者の監禁の上に構築されたものでした。
2006年初頭、デービッド・キルガー氏とデービッド・マタス氏は、法輪功修煉者から臓器が収奪されていることを暴露した報告書を発表しました。これを受け、中国政府は囚人の臓器を用いていたことを認め、うわべだけは、国外から中国への移植ツーリズムを禁止し、囚人が署名するための臓器提供 の同意書を揃えました。しかし、このみせかけの紙切れは切り刻まれることとなります。2012年、薄熙来の右腕だった王立軍が、生きた人間から臓器を収奪する施設を運営し、何千件もの移植手術を行ったことが明るみにでたのです。
致命的に暴露され、欧米からの圧力、特に国際移植学会の欧米の外科医たちからの圧力のため、中国の医療機関は、今後3年から5年にかけて自発的な臓器提供に移行すると確約しました。しかし、これも言葉だけのみせかけでした。「囚人からの臓器収奪を停止する」という表現で欧米の医師は納得しましたが、「良心の受刑者からの臓器収奪を停止する」とは言っていません。大量の数の良心の拘束者は、中国では登録されておらず公的には実在せず、中国側は、これらの人々に言及することを避けています。一方、欧米の医師たちは、「囚人」の中に「良心の受刑者」も含まれると期待して、この表現を受け入れているのです。この「良心の受刑者」というタブーの表現を避けることで、欧米人は自分たちの幻想に浸り続け、中国共産党政権は大量殺人を続けることができるのです。
中国で「良心の受刑者」からの大量な臓器収奪がどのように進展したのかをまとめるために、私は、医療専門家、中国の法規執行者、100名以上の難民を対象にした面接調査を2006年から始め、2014年末に『The Slaughter』という一冊の本にまとめました。発刊の一週間後、中国の医療機関は、2015年12月31日までに囚人から臓器を収奪することを停止すると発表しました。
しかし、停止はされませんでした。2016年6月22日、デービッド・キルガー氏、デービッド・マタス氏、私の三人で、再調査を行いました。文字のサイズにもよりますが、調査結果は700ページ、注釈は2000以上に及びます。これらの調査結果の一部をご紹介しましょう。その前に、なぜ私が日本に来たのかをご説明しましょう。
理由の一つは『中日友好医院』に関係しています。この病院は中国と日本の政府の共同で設立されました。日本政府から助成金を受けています。世界の多くの国家や地域からの患者、および中国共産党中央委員会の幹部のために、臓器移植を含む医療業務を提供しています。1600の病床、500名の職員を備え、2015年、中国で最も競合性に長けたトップ100の病院の中で43位にランク付けされています。
つまり、医療面で特別の日中関係を築くために、日本がはたらきかけたということです。そして目に見える結果がもたらされました。日本人で臓器移植が必要なら、内部ルートを利用して、瀋陽市にある中国医科大学付属第一医院に行くこととなります。この病院は日本語を話す看護師を雇用し、日本人の「移植ツーリスト」を対象に宣伝され、運営されています。(韓国人を相手にした同様の病院も存在するので、数日前にソウルも訪れました)
この最新報告書の内容をご説明しましょう。紙とペンのご用意をお願いします。中国の医療機関は、年間1万件の移植を行っていると一般に主張しています。しかし、ここで、中国の国家が認定する移植センターを1つとりあげてみましょう。3つか4つの移植外科チームを備え、移植患者用に30から40の病床が用意されています。手術後の回復に20~30日かかります。国外からの移植ツーリズムを除いても、中国国内だけで30万人が移植用臓器を待っています。
このような 施設で1日に1回移植が行われると考えることは妥当ではないでしょうか。146の移植 施設が認定を受けており、この全般的な要請を満たします。ちょっと走り書きして計算しただけで、年間1万件ではなく5万~6万件の移植が行われています。ご自分で算出してみてください。
これらの病院や移植センターが、国家が要請する最低基準である移植業務、病床数、手術要員数を備えると仮定しましょう。すると、年間8万~9万件の移植が可能となります。
年間5000件の移植が賄える天津第一中央病院についてはどのように説明すればいいのでしょうか。中国人民解放軍第309病院は? 中山(ちゅうざん)病院は? 病院の一覧表には、目を見張るものがあります。詳細に調査した結果、1日平均2件までの移植手術が行われていると算出されました。つまり、年間10万件以上となります。
ここにあげた数値は中国政府の公式発表でなく、Nurses Weekly(ナーシス・ウィークリー)という週間の機関誌など、中国の業界内の情報に基づいています。
中国の医療機関はここ2年間で医療改革をすることになっていました。この改革の渦のなかで、つじつまの合わない数値や、囚人が自ら臓器を提供するというまやかし、魔法のように突然設置された自主的な臓器提供制度などが語られました。しかし、我々の最新調査では1つ、一貫していることを見いだしました。移植病棟は建築中であり、 移植手術は通常通り行われているということです。
病院が生産性を上げる背後には、利潤という動機があります。中国共産党は何を動機としているのでしょうか? 私にはブラックボックスを見通せる特殊な洞察力はありません。人道に反する犯罪を熟知した者を粛清して、犯罪を隠ぺいするというマルクス主義のやり方を示唆することしかできません。おそらく、このために1日に500人の法輪功修煉者が、身体検査を受けたり、自宅で血液検査されたり、ウイグル人が不可思議な形で行方不明になっているのでしょう。
結論として、まず、我々ができないことから指摘させてください。
「良心の受刑者」から 臓器が収奪されていることを認めずに、この問題を解決することはできません。中国の移植専門病院を2~3軒回って中国が自称する医療改革を認証することはできません。国際移植学会の倫理委員会、臓器の強制摘出に反対する医師団のメンバーであるヤコブ・ラビー医師の言葉を引用させてください。
「ナチス・ドイツのテレージエンシュタット強制収容所について、1944年に国際赤十字は『心地よい娯楽施設のある収容所』として報告しました。ホロコーストの生存者の息子として、この過ちを繰り返してはならないという義務感を抱いています」
日本の医学会だけではこの問題を解決できません。米下院の決議案343号が必要です。我々のリサーチ、新しい調査が必要です。何人の日本人が移植のために中国に渡っているかを把握することが必要です。この問題に対する日本人の皆様からの支援は欠くことができません。
ラビー医師によると、2008年にイスラエルが移植ツーリズムへの反対の意を表明して以来、移植のために中国にわたったイスラエル人はひとりもいません。イスラエルは状況を監視し、健康保険から移植費用が賄える制度を変えましたが、それだけでは充分ではありません。イスラエルのソフトウェアにどんなに中国が投資していても、イスラエルの医師には(ホロコーストは)「二度と起こるべきでない」という気持ちであることを、中国に指摘する必要がありました。 台湾は法規を変え、中国への移植ツーリズムを拒否しました。中国の軍事威嚇を考えると、より勇敢なことです。しかし、台湾の医学会と政界が手を携えることができたのですから、私たちも可能であると確信しています。
これは法輪功の問題だと言われてきました。これはウイグルの問題だと言われてきました。違います。現代技術の蓑を着た、恐ろしい大虐殺です。患者は救えないかも知れません。少なくとも、日本は犯罪に手を染めることなく、移植手術に関わることをお願いする次第です。