臓器収奪 消える人々

2021年12月9日、英国人弁護士が率いるウイグル法廷が「中国はジェノサイド(民族大量虐殺)を犯した」と裁定。欧米各国が糾弾するこの蛮行に対して、日本政府はなぜ沈黙を守るのか?

中国の生体臓器移植ビジネスの背後にある、収容所と処刑所のつながりを告発する問題作。なぜ中国共産党首脳部はこんな残酷な医療制度を奨励したのか? この謎に迫るため、中国分析のベテランジャーナリスト、イーサン・ガットマンは、手術台上での囚人の殺害に関与した警察幹部や医師らへのインタビューをはじめ、当局から反体制とみなされる法輪功、チベット人、ウイグル人のコミュニティに深く入り込み、抵抗のドラマや裏切り、救われた瞬間などを丹念に聞き出していく。美談ばかりが強調される臓器移植問題に関して、人体が部品化されていく闇の工程に光をあてることで真の人道支援を訴える一冊。

原文抜粋:

”中国共産党は、資源も権力も手中に収め、国際的な賞賛を集めることに力を入れているのではないだろうか? 私の問題追究は、“どうやって”臓器狩りが起こったのかではなく、“なぜ”臓器狩りが行われているのか、にある。

臓器狩りの規模が大きくなった背景に、大量の法輪功修煉者の拘束があることに議論の余地はない。裏付けをとることは比較的単純な作業だ。いわゆる善悪を基準とした懲罰という図式を却下して、人間が行動を起こす動機は極めて複雑になる。

“なぜ”に対する複雑に絡み合う答えを求めて、4つの大陸に渡り100人以上の証言者と深く面接調査していった。証言者は私を信頼してくれた。自分の身の安全、そしてほとんどの証言者には、自分よりもっと大切な家族の安全と安寧が関わる。私が誤った方向に行くのではないかと懸念を受けた時期もあった。しかし彼らは、私が祈り求めていた光輝く西洋の騎士ではないことを理解したうえで、証言に協力してくれた。

こうして貴重な断片が埋められていった。ロゼッタストーンの原型を知るものはない。逮捕から残虐な遺体処分に至るまでの全工程を語れる証言者がいたら、私は信用しない。「仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺せ」という禅語のように、すべてを把握している者はスパイだ。

人間には落ち度があるが、その属性として信頼がある。信頼は研究室では製造できない。限界があり、偏見を抱き、失敗するがために、人間を単純に再生することは難しい。これまで多くの人間と出逢ったが、中国で強制労働所を経た難民は、多くの痛みを抱え、期待を抱き、困窮していた。彼ら以上に苦悩する者を私は知らない。

12月初旬の夜更け、ロンドン北部のアパートに一人で座りながら、中国からの難民たちの息づかいを感じる。やっとここまで辿り着いたが、これまでの犠牲者の苦闘を考えれば、実に些細な努力に過ぎない。中国全土に及ぶ、愛する者を失った家族のことを思えば、まったく不十分である。

現代中国史のこのおぞましい一幕について、すべてに十分な答えを見出すことはできない。しかし、7年間の試行錯誤を経て、この問題を提起する適切な視点をようやく見出したと思う。”

(第一章 新疆での試み 「問題の提起」 より)

ワニブックス ニュースクランチ 中国 生体臓器ビジネスの闇 第5回: 不可解な身体検査…国家による「臓器の選別」の恐怖より抜粋

定価:2500円+税
発売日:2022 年1 月25 日
頁数:416P
発行:株式会社ワニ・プラス
発売:株式会社ワニブックス

【著者プロフィール】
イーサン・ガットマン
中国専門のアナリスト。人権問題の調査者。共産主義犠牲者記念財団(VOC)中国研究の上席研究員。中国での臓器移植濫用停止ETAC 国際ネットワーク共同創設者。The Wall Street Journal Asia、The Weekly Standard、National Review、Investor’ s Business Daily などに寄稿。米国議会、CIA、欧州議会、国連で報告。ロンドン、オタワ、キャンベラ、ダブリン、エジンバラ、プラハ、エルサレムで証言。ブルッキングズ・インスティテューションの元国外政策研究アナリスト。PBS、CNN、BBC、CNBC に出演。2017 年のノーベル平和賞候補者。2004年のLosing the New China(新中国の喪失)刊行後、中国のインターネット監視システム、労働改造制度、欧米のビジネスと中国の安全保障上の目的との接点に関するガットマンの研究が持続的に注目されるようになる。第二作にあたる本書、『臓器収奪─消える人々』を2014 年に刊行。2016 年には『中国臓器狩り』(2009 年)の著者らと〈更新版〉を共著。中国国内の数百件の臓器移植プログラム、メディア報道、公的なプロパガンダ、医療雑誌、病院のウェブサイト、アーカイブされた大量のウェブサイトの丹念な詳査を基礎とする影響力のある報告書となった。現在は、中央アジアのウイグル人、カザフ人の難民に対しての個人的なインタビューに基づいた本を執筆中。

【翻訳者プロフィール】
鶴田(ウェレル)ゆかり
1960 年東京生まれ。学習院大学英米文学科卒業後、渡英。英国公開大学で環境学学士取得。1986 年より英和翻訳業(1998~2008 年英国翻訳通訳協会〈ITI〉正会員)。2015 年秋より中国での臓器移植濫用の問題に絞った英和翻訳(ドキュメンタリー字幕、ウェブサイト、書籍翻訳)に従事。2016 年秋より中国での臓器移植濫用停止ETAC国際ネットワーク(International Coalition to End TransplantAbuse in China)の日本担当。2016 年10 月から2019 年12 月までの期間、欧米の調査者・証言者の滞日中のアテンド、通訳、配布資料準備に携わる。英国在住。